思い出
何も知らなければ随分楽だったのだろう。普通の大学に進学して、何も変わらない日々を過ごし、インカレに誘われる美人の同級生を横目に帰るような、吐き気がする毎日を文句言わずに過ごしていれば。
全部無ければ良かったのだ。
芝生の上を舞うシャボン玉も
無駄に長い名前を付けられたテディベアも
グラウンドに響いたキャッチャーミットの音も
友人と癖のあるしりとりをしていた電車内も
初秋の湖と雨上がりの花火も
先輩と初めて行ったカラオケも
不意に被っていたフードを取られて見上げた先の瞳も
好き勝手に喋っていた学バスも
二度と見たくない『星の王子さま』の紙袋も
昨日のことのように思い出して苦しくなるなら忘れてしまえばいい。
それも無理なら消えてしまえばいい。
その勇気すらないのだから、こうやって恥を晒して生きている。
大好きな人達から離れたい。こんなクズに構って身を滅ぼすような真似はやめてほしい。どうせ寂しさで死ぬような奴なのだから放っておけばいい。
別れもお礼もろくに言えなかったのが気がかりだけど、いいよね。お互い忘れるから。
形のない思い出なんてそんなものよ。